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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)7号 判決 1985年10月23日

主文

原判決中控訴人の被控訴人運輸大臣に対する訴えのうち、被控訴人運輸大臣が控訴人に対してした千葉県山武郡芝山町香山新田字横山一一五番一所在の鉄骨鉄筋コンクリート地上三階、地下一階建の建築物一棟について、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法第三条第一項第一号又は第二号の用に供することを禁止する旨の昭和五八年二月二日付けの処分の取消しを求める請求を棄却した部分を取り消す。

右取消しに係る控訴人の訴えを却下する。

控訴人の被控訴人運輸大臣に対するその余の控訴及び当審における追加請求並びに被控訴人国に対する控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人運輸大臣が控訴人に対してした、主文第一項掲記の建築物一棟について、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法第三条第一項第一号又は第二号の用に供することを禁止する旨の、昭和五四年二月九日付け、同五五年二月六日付け、同五六年二月六日付け、同五七年二月一日付け、同五八年二月二日付け及び同六〇年二月一日付けの各処分を取り消す。(右昭和六〇年二月一日付けの処分を取り消す旨の請求は、当審で追加した請求である。)

3  被控訴人国は、控訴人に対し、五〇〇万円及びこれに対する昭和五四年二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに右同日から第2項記載の昭和五四年二月九日付け処分が失効するまで一か月三五万円の割合による金員の支払をせよ。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  第3項につき仮執行宣言

二  被控訴人ら

1  本件控訴及び控訴人の当審における追加請求を棄却する。

2  当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張及び証拠関係

次につけ加えるほか、原判決事実摘示及び当審における本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  原判決書四枚目裏八行目中「五八年度処分」の下に「及び昭和六〇年度処分を、同一〇行目中「同五八年二月二日」の下に「、同六〇年二月一日」を、同五枚目表一行目中「昭和五八年度処分」の下に「、「昭和六〇年度処分」」を加え、同一四枚目裏九行目中「塔乗」を「搭乗」に改め、同二七枚目裏九行目の次に行を替えて「(六) しかしながら、その後においても、新東京国際空港及び本件工作物をめぐる状況に基本的変化はなく、本件工作物について、なお緊急措置法三条一項本文、一号及び二号の要件に該当することが明らかであったので、被控訴人運輸大臣は、昭和五九年二月三日付けの広告をもって同月六日から昭和六〇年二月五日まで前同様の供用を禁止する命令を発し、更に、昭和六〇年二月一日付けの広告をもって同月六日から昭和六一年二月五日まで同様の供用を禁止する命令を発した。」を加え、同三三枚目裏二行目中「(五)」を「(六)」に改め、同三行目中「五八年度各処分」の下に「及び昭和六〇年度処分」を加え、同三六枚目裏八行目中「五年」を「七年」に改める。

二  控訴人の当審における主張

1  新空港は、それ自体違憲不法の行為の集積の産物であり、これを保護するに値しないものであるところ、緊急措置法は、新空港を保護する目的の法律であるから、その保護法益自体違憲不法なものであって、右措置法は違憲無効のものである。すなわち、

(一) 新空港は、その位置決定にあたって、公聴会を開催しなかったという重大な手続違反を犯している。航空法三八条は「運輸大臣及び新東京国際空港公団以外の者」は、飛行場を建設しようとするときは、運輸大臣の許可を受けなければならない旨を規定しているところ、昭和四一年七月四日当時、右公団は未発足であったから、新空港を設置しようとする者は内閣であった。したがって、内閣は、本件空港の位置指定について、航空法三八条に基づき運輸大臣に許可申請をするのが法の定める手続であった。そして、運輸大臣は、右申請を受けて、同法三九条一項の審査をなすべきであり、同条二項により公聴会を開催する必要があった。しかるに、この重要な民主的手続が全く行われないまま新空港の位置決定がなされ、その建設が進められたものである。

(二) 新東京国際空港公団法附則八条は、公団の最初の事業年度が昭和四一年三月三一日に終ることを要求しているところ、右公団は、昭和四一年七月三〇日に設立登記が行われて成立したものであって、右附則に違反している。

また、公団が業務を開始するには、同法二四条の規定による業務方法書につき運輸大臣の認可を受けることを要するところ、公団がその認可を受けたのは昭和四六年一二月一日であり、昭和四一年七月三〇日から昭和四六年一二月一日までの間同法二四条に違反して恣意的に業務を運営してきた。

(三) 新空港は、続行されるべき空港工事(いわゆる第二期工事)が不能となった結果、その違法性が確定した。新空港は、現在暫定的に開港されているに過ぎず、更に空港を広げる工事の続行がなされなければ、空港の目的である国際空港の資格を有することはできない。第二期工事が最終的に不能になった場合には、その違法性は確定し、暫定的開港という措置は認められないところ、第二期工事は、これに関する権利取得裁決の申請及び明渡裁決の申請後、既に一年及び四年が経過し、右申請が失効し、そのため第二期工事の事業認定が失効しており、今後同工事の実行は不能であって、新空港は廃港以外の途はない。すなわち、新空港の第二期工事に関する権利取得裁決の申請は昭和四五年一二月一六日までに、明渡裁決の申請は昭和四八年一二月一六日までになされているが、いまだに右各申請についての裁決はなされていない。しかし、これは土地収用法二九条がその申請期限を定めた趣旨を失わせるものであるから、権利取得裁決の申請の日から一年以内に裁決がなされない場合及び明渡裁決申請の日から四年以内に裁決がなされない場合には、右各申請は失効し、ひいては事業認定が失効すると解すべきである。

2  緊急措置法は、新空港の建設に伴なってなされた違憲違法の大量の行政行為の強制的実行に対し、反対して行われた国民の抵抗権の行使としての行動である市民運動ないしは反対運動を敵視して立法されたものであって、違憲無効である。また、本件各処分も、右同様違憲無効である。

3  本件各処分は、その対象者を「所有者、管理者、占有者」としているが、これでは処分対象者を特定したことにならず、違法な処分である。

また、緊急措置法の適用にあたっては、「暴力主義的破壊活動者」と本件処分の対象者である「所有者、管理者、占有者」の結びつけが必要であるところ、右両者につき何ら特定がなされておらず、この点からしても右処分は違法である。

三  被控訴人らの当審における主張及び認否

1  昭和五八年度処分は、その期限とされた昭和五九年二月五日の経過によって失効しているから、控訴人は、右処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を失った。したがって、控訴人の被控訴人運輸大臣に対する訴えのうち、右処分の取消しを求める部分は、訴えの利益を欠き不適法なものとなったから、原判決中右処分に係る部分を取り消した上で、却下すべきである。

2  控訴人の主張1について

(一) 昭和四一年七月四日の「新東京国際空港の位置は、千葉県成田市三里塚町を中心とする地区とする」との閣議決定は、政府の指針を明らかにしたものにすぎないから、右閣議決定について航空法三九条一項、二項の手続をとる必要はない。

(二) 公団法附則八条は、公団の最初の事業年度の期間を定めた技術的規定であって、公団成立の適法要件、有効要件を定めるものではない。

公団法二四条一項によって作成を義務付けられている業務方法書は、公団の業務遂行に係る事実行為についての内部的な規準というべきものであるから、業務方法書の作成が業務開始の後になされたとしても、公団の成立及びその業務遂行としてなされた行為の対外的な適法性、有効性を左右するものではない。また、公団の業務遂行のうち重要な行為については別途法律によって規制されており、もとより公団の業務遂行が恣意的に行われてきたことはない。

(三) 土地収用法上事業認定が失効する場合として同法二九条一項、二項、三〇条四項、三四条の六が定められており、控訴人の主張する事由はこれに該当せず、新空港建設事業に係る事業認定が失効したとする理由はない。

2  同2について

本件各処分は適法であるから、抵抗権等に関する控訴人の主張も失当である。

3  同3の主張は争う。

理由

一  当裁判所は、控訴人の被控訴人運輸大臣に対する昭和五四年度ないし五八年度各処分の取消しを求める訴えは不適法として却下すべきであり、昭和六〇年度処分の取消しを求める請求及び被控訴人国に対する請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、次につけ加えるほか、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  原判決書三八枚目表六行目中「できる。」の下に「また、被控訴人運輸大臣が本件工作物の所有者(控訴人)、管理者及び占有者に対し、右と同内容の昭和六〇年度処分を同年二月一日広告をもって発したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば右処分による供用禁止の期限が昭和六一年二月五日であることが認められる。」を加え、同裏一行目中「五七年度」を「五八年度」に、同三行目中「五八年」を「五九年」に、同四行目、同一一行目、同三九枚目裏一行目中「五七年度」を「五八年度」に、同三八枚目裏一一行目中「訴」を「訴え」に、同三九枚目裏六行目中「二〇」を「二七」に改め、同行から同七行目にかけて「成立に争いのない」の下に「甲第二〇ないし二六号証、」を加え、同四七枚目表一行目「あるが」を「あり」に改める。

2  同五三枚目裏二行目の次に行を替えて「弁論の全趣旨により成立を認める乙第一一九号証の一ないし三、第一二〇、第一二一号証、第一二二、第一二三号証の各一、二、第一二四号証、第一二五、第一二六号証の各一、二、第一二七ないし第一三〇号証によると、昭和五九年二月から同年一一月下旬にかけて、控訴人を支援する中核派等のいわゆる過激派諸党派が、新空港及びこれに関連する諸施設に対し、緊急措置法第二条第一項にいう「暴力主義的破壊活動等」に該当する前同様の違法な破壊活動を繰り返し、右期間中右過激派諸党派は、右のような破壊活動を今後も継続する意思を表明していることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。」を加え、同三行目中「いずれも」を、同四行目中「第一五号証、」を、同五行目中「号証、第一六」を削り、同五四枚目裏四行目、同一二行目中「各処分」の下に「及び昭和六〇年度処分」を加え、同五五枚目表一行目中「五七年度」を「五八年度」に改める。

3  同五六枚目表七行目中「昭和五八年度」を「昭和六〇年度」に、同一〇行目中「五七年」を「五八年」に改める。

4  控訴人の当審における主張について

(一)  控訴人は、新空港はそれ自体違憲不法の行為の集積の産物で保護するに値しないものであるから、新空港を保護する目的の緊急措置法は違憲無効なものである旨主張するけれども、仮に、新空港の建設等の手続に控訴人主張の瑕疵があったとしても、そのことから直ちに新空港及びその機能に関連する施設の設置及び管理の安全の確保を図り、航空の安全に資することを目的として立法された緊急措置法が違憲無効となると解することはできないから、控訴人の右主張はその前提を欠き採用できない。のみならず、新空港の位置についての昭和四一年七月四日の閣議決定は、政府の行政指針にすぎず、新空港の設置者が公団であることは公団法一条及び航空法五五条の三の規定により明らかであるから、右閣議決定の段階においては、新空港の設置者が内閣であったとみるべき根拠はなく、航空法三九条二項が政府において新空港の位置について閣議決定する際に適用される規定でないことも、右条項の趣旨からして明らかである。また、控訴人主張の公団法附則八条ないしは公団法二四条一項の規定違反によって公団の成立が無効となり、あるいは公団の業務が違法となるものと解することはできないし、更に、控訴人が1(三)で主張する事実をもってしては、土地収用法上の事業認定の失効事由に該当しないことは明らかであるから、控訴人の主張は到底採用することができない。

(二)  次に、控訴人は、緊急措置法は、国民の抵抗権の行使を敵視して立法されたものである旨主張するが、前記認定の本法の立法に至る経緯に照せば、右主張はその前提を欠くことが明らかであり、到底採用することができない。

(三)  更に、控訴人は、本件各処分は、その処分対象者を特定していない旨主張する。

前記判示のとおり、昭和六〇年度処分が「本件工作物の所有者(控訴人)、管理者及び占有者」に対して発せられたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、「管理者及び占有者」が具体的に表示されていないことは明らかであるが、控訴人に対する関係では、所有者として特定掲記されており、本件工作物の所有者が控訴人であることも当事者間に争いのないところであるから、右「管理者及び占有者」を具体的に表示していないとしても、控訴人に対する関係では昭和六〇年度処分の効力には何ら影響がないというべきである。

また、控訴人は、緊急措置法が適用されるためには処分の対象者である所有者等と暴力主義的破壊活動者との結びつけが必要である旨主張するが、同法三条一項は、工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用等に供され、又は供されるおそれがあると認められることをその適用の要件とするのみであり、右工作物の所有者等が右活動者であること等をもその要件としているとは解することができないから、控訴人の右主張も採用の限りでない。

二  したがって、原判決中被控訴人運輸大臣の昭和五八年度処分の取消し請求を棄却した部分は取消しを免れないが、その余の部分に係る控訴人の本件控訴及び当審における追加請求は理由がない。

三  よって、原判決中右棄却部分を取り消し、右取消しに係る控訴人の訴えを却下し、控訴人の被控訴人運輸大臣に対するその余の控訴及び当審における追加請求並びに被控訴人国に対する控訴を棄却し、当審における訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のように判決する。

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